今井絵美子さんの『さくら舞う 立場茶屋おりき』を読み始めた。今井さんは、『鷺の墓』『雀のお宿』など、瀬戸内の小藩を舞台にした連作時代小説で注目される気鋭の作家である。今回は舞台を江戸・品川宿門前町に移し、主人公は立場茶屋(たてばぢゃや)おりきの二代目女将のおりきである。
さくら舞う―立場茶屋おりき (角川春樹事務所 (時代小説文庫))
- 作者: 今井絵美子
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おりきは、立木雪乃というの名を捨て、故郷を捨て、武家を捨てた、人に言いたくない過去がある。その経緯はやがて作品の中で語られていくことだろう。哀しみを通り越して、深い絶望の淵を漂っているような思いをしたことがあるせいか、苦しんでいる人に対して優しい眼差しを向けることができる人である。美人で凛として気品が作品全体に満ちていて、読み味がよい。
「さくら舞う」では、哀しみを背負った、薄幸の女性客が事件に巻き込まれる。おりきの立場茶屋は、旅人に湯茶や一膳飯、酒肴を供する休息所としてだけでなく、浪花講の鑑札を持つ旅籠としての機能ももっていた。そこで、客とのやりとりなど、『御宿かわせみ』を想起させるところもあり、おもしろい。
- 作者: 平岩弓枝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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