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東北の藩を舞台にした時代小説

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高橋義夫さんの『かげろう飛脚』を読んだ。単なる御家騒動ものに終わらず、武士としての生き様を描いていて面白かった。主人公の鬼悠市の活躍ぶりも見ものだが、悠市に密命を下す奏者番の加納正右衛門、悠市の上司ながら形ばかりで秘事を知らされていない足軽目付組頭の竹熊与一郎、悠市に警護される分家の元家老・日向杢兵衛の3人のキャラクターがしっかりと描かれていて面白い。

かげろう飛脚―鬼悠市 風信帖 (文春文庫)

かげろう飛脚―鬼悠市 風信帖 (文春文庫)

とくに、主君の廟所がある寺の離れに幽閉されて、悠市と養子の柿太郎の世話を受ける杢兵衛が魅力的だ。四十歳になったばかりのはずだが、肩が薄く老人のように見える。元家老という身分らしからぬへりくだった口調で悠市たちと接する。その反面で、苦境に陥った藩を救うために一命を懸けて主君追放の願書を出したり、反対派から命を狙われても屈せず、はたまた暴発する藩士を鎮めたりする。そして、かげろう飛脚と隠密を抱えているとも噂される。

興味深い人物というと、目早の北溟という異名をもつ相場師・本島才兵衛が登場する。物語中でも米相場のことが説明されていることから、作品に登場する甘木湊は酒田をモデルにしているような気がする。そうすると、松ヶ岡藩は鶴岡藩(庄内藩)をイメージしているのだろうか。黒岩藩は松山藩といったところか。

ともかく、藩の危機に立ち向かう人たちの行動に、感動を覚えた。