荒崎一海さんの『風霜苛烈』を読み始めた。「闇を斬る」シリーズの第6弾である。今治藩を出奔し、江戸で直心影流十二代目の団野源之進の高弟として、代稽古の指南を務める鷹森真九郎。出奔の原因となった国家老の鮫島兵庫は亡くなったが、亀沢町の団野道場から帰るたびに、刺客の襲撃があった。
- 作者: 荒崎一海
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2006/09
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る
襲撃のたびに、五人、四人、六人と刺客を斬っていく真九郎。際限のない修羅に、なお正気を保っていられるのは妻・雪江がいるから。雪江のすべてが心の支えだった。
「闇の頭目がことを考えていた。私には、鬼心斎が心に底知れぬ虚ろをかかえているように思える」
「虚ろにござりますか」
「うむ、なにゆえかは知らぬが、かの者は私をそこへひきずりこもうとしている。雪江を襲えば、私は鬼になる。それは、望みではあるまい。際限なく刺客を小出しにする。そうすることによって、私を挫けさせる気なのだ。案ずるな、負けはせぬ。私には、雪江がいる」
雪江が眼もとをそめた。
「あなた、うれしゅうござります」
「まことだ。私が耐えていけるも、雪江がいるからだ。いつまでも、どこまでも、ともに生きていこう」
(『闇を斬る 風霜苛烈』P.148より)
人斬りのシーンが多くても殺伐とした気分にならずに、このシリーズを読み続けるのは、主人公がこんな愛妻家の剣客だからかもしれない。