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愛妻家の剣客

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荒崎一海さんの『風霜苛烈』を読み始めた。「闇を斬る」シリーズの第6弾である。今治藩を出奔し、江戸で直心影流十二代目の団野源之進の高弟として、代稽古の指南を務める鷹森真九郎。出奔の原因となった国家老の鮫島兵庫は亡くなったが、亀沢町の団野道場から帰るたびに、刺客の襲撃があった。

風霜苛烈―闇を斬る (徳間文庫)

風霜苛烈―闇を斬る (徳間文庫)

襲撃のたびに、五人、四人、六人と刺客を斬っていく真九郎。際限のない修羅に、なお正気を保っていられるのは妻・雪江がいるから。雪江のすべてが心の支えだった。

「闇の頭目がことを考えていた。私には、鬼心斎が心に底知れぬ虚ろをかかえているように思える」

「虚ろにござりますか」

「うむ、なにゆえかは知らぬが、かの者は私をそこへひきずりこもうとしている。雪江を襲えば、私は鬼になる。それは、望みではあるまい。際限なく刺客を小出しにする。そうすることによって、私を挫けさせる気なのだ。案ずるな、負けはせぬ。私には、雪江がいる」

 雪江が眼もとをそめた。

「あなた、うれしゅうござります」

「まことだ。私が耐えていけるも、雪江がいるからだ。いつまでも、どこまでも、ともに生きていこう」

(『闇を斬る 風霜苛烈』P.148より)

人斬りのシーンが多くても殺伐とした気分にならずに、このシリーズを読み続けるのは、主人公がこんな愛妻家の剣客だからかもしれない。