米村圭伍さんの『紀文大尽舞』を読み終えた。
花のお江戸で女だてらに戯作者(江戸時代の小説家)を目指す、湯屋真砂湯の娘・お夢。蜜柑(みかん)船で一夜にして財をなした豪商紀伊国屋文左衛門(紀文)の一代記を書くために、その跡を追い回した。紀文に吉原に逃げられて尾行がうまくいかなかったお夢は、逆に深川猿子橋のたもとで夜鷹に襲われ堀に突き落とされる……。
お夢は、紀文の蜜柑船の伝説を、紀州において蜜柑の江戸回送には鑑札(藩の許可)が必要で、鑑札のない者が蜜柑の運送を願い出ても藩の許可が下りるはずがないことに着目して、その虚構を暴くことに。物語は伝説の裏に隠された真相に迫っていく。
紀文の企み、大奥での権力抗争、吉宗と紀州藩の暗躍、将軍継承をめぐる暗闘……。お夢の活躍で次々と驚くべき話が明らかになっていく。
堀に突き落とされ泥に埋まって溺れそうになったお夢を助けるのが、紀州藩士倉地仁左衛門(『風流冷飯伝』シリーズでおなじみのの倉地政之助の祖先)とその手先のむささびの五兵衛。そして、大久保彦左衛門と名乗る老旗本。紀文の愛妾三浦屋几帳や娘明夜、幇間二朱判吉兵衛、大奥の天英院やお附きの女中志賀ら、多彩な人物がトンデモナイ物語にしていく。
作者の米村さんは、『風流冷飯伝』で小説新潮長篇新人賞を受賞して以来、大ボラとパロディを交え、ユーモアと軽妙さにあふれた作品を次々に発表している。江戸の戯作者にも通じる米村さんの活躍ぶりに注目していきたい。
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