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榎本武揚さん、嫌っていてゴメンナサイ

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佐々木譲さんの『幕臣たちと技術立国』を読んだ。日本の近代化に命を懸けた三人の幕臣を描いた歴史読み物である。明治維新が近代の「夜明け」という従来の通念に対して、開国に始まる幕末にすでに近代は始まっていたという著者の論旨が新鮮で、かつ理解しやすかった。

伊豆韮山代官の江川太郎左衛門英龍、ペリー艦隊と最初に接触した浦賀奉行所与力の中島三郎助、箱館戦争時に蝦夷共和国の総裁を務めた榎本武揚という三人の幕臣の技術官僚としての面に着目し、その生涯を簡単に紹介することで、日本の近代化が幕府側から始まっていたことを解き明かしている。

佐々木さんはこの本で、徳川幕府を古い世界観と旧弊な道徳観に基礎を置いた、滅ぶべき体制として描いていない。アジアの激動の時代に、幕府の採った日本の近代化政策を評価している。われわれは、今まで保守・守旧=幕府、進歩・開明=薩長というふうに刷り込まれていたが、戊辰戦争は近代化の路線と樹立されるべき近代国家のあり方をめぐる内戦であり、その争いの結果に関係なく近代化は起こるべくして起こったのである。

明治以降の歴史観により、矮小化された技術系の幕臣たちの業績に光を当てた本書は貴重な一冊といえる。実は、この本を読むまで、箱館戦争敗戦の責任を負いながら投降し、わずか二年半の刑期で出所して、明治政府に仕えて外務官僚、技術官僚として高官に上り詰め爵位まで授けられた榎本武揚を武士にあるまじき裏切り者と見ていた。しかし、本書により、彼が徹底した合理精神の持ち主であり、それは技術者的合理性で、徳川家への忠誠よりも日本の近代化に生涯を捧げた人物ということを知った。長い間、誤解していてゴメンナサイ。

ちなみの榎本武揚は、東京農業大学(創設当初は徳川育英会育英黌農業科)の創設者だそうだ。もっと積極的に、榎本武揚が登場する本を読もう。

武揚伝〈1〉 (中公文庫)

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黒龍の柩 (上) (幻冬舎文庫)

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榎本武揚 (中公文庫)

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