荒山徹さんの『魔岩伝説』を読み終えた。前作『魔風海峡』から時代が二百年下った文化八年(1811)に舞台を移し、泰平の時代をどう描くか興味深かったが、荒山さんはとんでもない物語を作り上げていた。
五十年ぶりに朝鮮通信使が来日する直前、その窓口となる対馬藩の江戸屋敷に、「鈴木伝蔵」と名乗る曲者が侵入した。曲者は、「ハクセキトウの方々はおられぬか」と謎の言葉を残して去っていく。しかし、その人物は五十年前に死んでいた。事件の後、勘定奉行柳生主膳正久通の屋敷に、幕府の官学朱子学を司る林家の八代目当主林大学頭衡が訪れて密談を交わした。その後、主膳正は、庶子の柳生卍兵衛(ばんべえ)に、鈴木伝蔵と名乗る曲者を捕らえるように命じる。卍兵衛の魔手から曲者、実は美貌の少女を救ったのは、家出中の若き遠山景元(遠山の金さん)だった……。
少女が仄めかす徳川幕府二百年の泰平を震撼させる、李氏朝鮮と家康の密約とは? 国禁を犯し、朝鮮に渡る景元と追う柳生卍兵衛と、林大学頭の四男で若き日の耀蔵(後の鳥居甲斐守忠耀)。卓抜なる奇想で波瀾万丈の物語が紡ぎだされていく。ネタばれになるので、あまり書けないが、今回も山田風太郎さんと隆慶一郎さんの作品に匹敵する伝奇時代小説の傑作に仕上がっている。朝鮮の歴史の勉強にもなるので、描かれている時代は少し後になるが、「宮廷女官 チャングムの誓い」で李氏朝鮮時代のことに興味をもった人にもおすすめ。
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