浅黄斑(あさぎまだら)さんの『山峡の城 無茶の勘兵衛日月録』を読んだ。浅黄さんは、『雨中の客』で第14回推理小説新人賞を受賞してデビューし、『死んだ息子の定期券』ほかで第4回日本文芸家クラブ大賞を受賞された、ミステリー小説での活躍で知られる作家。時代小説では、若き日の芭蕉を描いた『芭蕉隠密伝 執心浅からず』が印象深い。
さて、『山峡の城』は、寛文七年(1667)頃の越前大野藩が舞台の時代小説。主人公の勘兵衛は、七十石で郡方勘定役小頭を務める落合孫兵衛の長男で、このとき十一歳だったが、「無茶の勘兵衛」と周囲から呼ばれていた。
そのあだ名の由来はこうだ。三歳のときに雪に埋もれて死にかけたことがあり、五歳のときには湧水池で溺れかけたことがあり、七歳のときには三丈(約9m)の楠に登って樹上で立ち往生して大騒ぎになり、九歳のときには梅雨で水かさを増した川に飛び込んで半里(2キロ)も流され、一年おきに無茶をしでかす童だとの評判が立ち、ついには「無茶の勘兵衛」と呼ばれ、城下で有名人になってしまったのだ。
物語は、「坊ちゃん」を連想させるような無鉄砲な勘兵衛少年の成長とあわせるように、藩内の不吉な影が大きくなり、抗争劇が激化していく。そしてついには、一人の藩士の斬殺体が発見される……。
藩内の抗争を背景に少年の成長を描く作品としては、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や宮本昌孝さんの『藩校早春賦』、羽太雄平さんの『峠越え』などの傑作がある。青春時代の友情や初恋、純情などが、どす黒い大人の争いと対比して描かれることで、清冽さがいっそう際立ち、読み味がよくなっている。
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