昨日のセミナーについて、感想を書いたところ、講師の大橋悦夫さんからトラックバックをいただいた。また、同じ参加者のhito-kanさんからもトラックバックを付けていただいた。感謝。
さて、昨日宣言したとおり、時代小説に戻って山本一力さんの『深川駕籠』について書きたい。この作品は、江戸・深川を舞台にした連作形式の時代小説だ。
主人公は、新太郎とその相肩の尚平という二人の若き駕籠舁(か)き。新太郎は、老舗の両替屋の総領息子だったが、実家から勘当され、その後臥煙(火消)の纏振りを務めていた。一方の尚平は、安房勝浦の漁師だったが、草相撲で網元の息子を死にそうな目に遭わせて逐電した過去を持つ。いずれにしても、駕籠舁きがヒーローの小説は珍しい。
駕籠舁きといえば、脚自慢の職業。というわけで、本書では単に二人が人を運ぶだけでなく、再三、脚比べをする。そして、最大のヤマ場は脚自慢の称号をかけた「年忘れ吉祥駆け比べ」だ。レースに参加するのは、新太郎のほかに、千住の駕籠舁きで新太郎のライバルの寅、入谷の町内鳶で百姓馬との駆け比べに勝ったことがある源次、町飛脚の勘助の四人。
深川富岡八幡宮から高輪大木戸までの一里半を往復し、復路では大川(隅田川)を泳いで渡るという、まさにトライアスロンである。師走の町を盛り上げようとする深川の人々、意趣を含み邪魔しようとする町方同心大野清三郎、駆け比べの行方は……。
新太郎と尚平の二人が暮らす長屋の大家木兵衛が偏屈ぶりを示して絶妙な味を出している。また、千住大木戸駕籠の寅もヒールぶりを示して魅力的な登場人物の一人だ。やくざの親分恵比須の芳三郎、損料屋の喜八郎、料亭江戸屋の女将秀弥など、山本で作品のおなじみのキャラクターが顔を見せるところは、ファンにはたまらないところ。義理と人情を味わいたい人、スカッとしたい人におすすめの一冊だ。
- 作者: 山本一力
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2006/04/01
- メディア: 文庫
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