荒崎一海さんの『闇を斬る 残月無情』を読んだ。『直心影流龍尾の舞い』『刺客変幻』『四神跳梁』に続くシリーズ第四作めにあたる。
主人公の鷹森真九郎は、今治藩の目付役を務めていたが、藩内の抗争に巻き込まれて、妻の雪江を伴って出奔し、江戸で直心影流十二代目団野源之進義高の代稽古で、筑後国柳河藩立花家の江戸藩邸道場に通っている。
江戸に出てすぐに、数人の侍に襲われた大店和泉屋宗右衛門を救ったことから、“闇”と呼ばれる謎の徒党と対決することになる。前作では、北町奉行所同心の桜井琢馬や岡っ引き藤二郎らの協力で、江戸を震撼させる盗賊集団四神一味の捕縛に成功するが、それは闇のごく一部であった。
本所亀沢町にある団野道場からの帰り、仙台堀で真九郎は闇から送られた四人の浪人たちに命を狙われる。そこで、二カ月前に両国薬研堀で八人の浪人に襲われた際に、腕の傷の手当てしてくれた門前仲町の芸者染吉と再会する……。
物語は、剣難に加えて女難の雰囲気も漂わせつつ展開していく。このシリーズの魅力の一つは、ふんだんに出てくるチャンバラシーン。真九郎は、弧乱と霧月の秘剣を持っているがいずれも多人数を相手にしたときの見切りとかわしを中心とした剣技である。そして彼の強さを引き出しているのが、放火、強盗、殺人で江戸の震撼させるかたわら、真九郎に次々と刺客を送り込む闇の存在。
また、江戸の事物についても、わかりやすく解説してくれるのがうれしいところ。たとえば、以下、町奉行所同心の年収について説明している。
そのほかに、琢馬は、四神一味捕縛の功で、大判一枚をたまわり、三人扶持の加増があった。町奉行所同心は、三十俵二人扶持である。それが五人扶持となった。手柄や年功によって、十人扶持くらいまで加増される。
一人扶持は一日五合である。扶持は一年を三百六十日で計算するので一石八斗。一石一両として、五両二分(四分で一両)弱の増収だ。三十俵は十石五斗で、それまでは十四両ほどの年収であった。
強すぎるヒーローはスリリングさに欠け、荒唐無稽になってしまうので、“闇”には、このまま強くて悪逆非道な集団でいてほしいものだ。
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