石月正広さんの『笑う花魁』を読み始めた。最近、講談社文庫で力を入れている、時代小説書き下ろしの一作品である。時代小説の文庫書き下ろしは、佐伯泰英さんの登場以降、最近、多くの文芸書の出版社で見られる傾向である。しかし、講談社のように、大衆文芸月刊誌(「小説現代」)を有する出版社では珍しい。
従来、長編小説は文芸誌に何回かに分けて連載され、連載が終了するか、ある一定のボリュームに達した時点から数カ月後に、単行本として上梓され、その2、3年後に文庫化されるのが一般的だった。このパターンのメリットは、連載時、単行本刊行時、文庫刊行時の最低3回、見直し、フィルターをかけることができ、より質の高い、売れる作品に仕上げることができること。
一方、文庫書き下ろしのメリットは、勢いに乗って一気に作品をリリースできることだろう。とくにシリーズものでは、従来なら3年ぐらい経たないと新作が読めなかったものが、3、4カ月程度待つだけで次の巻が読める。読み物好きなファンにとっては、うれしいところだ。
さて、作者の石月さんには、上州の侠客・国定忠治の子分、板割ノ浅太郎の半生を描いた『渡世人』という隠れた名作がある。馬券師をされていたと、プロフィールに書かれているのを見て、そういえば、以前に競馬にハマり毎週末を競馬場で過ごしていた時期に、競馬雑誌で目にした名前であることを思い出した。
競馬ライターの経験を持ち、その後時代小説を書かれた方で有名なのが浅田次郎さん。浅田さんの本で初めて読んだものが『競馬の達人』(ベストブック)だった。ほかには、馬をテーマに時代小説『馬よ波涛を飛べ』を書いた赤木駿介さんがいる。
3者とも競馬から学んだものを小説に取り入れているように思える。浅田さんは人間臭さやエンターテインメント性を、赤木さんはロマンとスポーツ性を、石月さんは無頼とギャンブル性を、それぞれ特徴的に描き出している。
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