佐伯泰英さんの『居眠り磐音 江戸双紙 紅椿ノ谷』を読む。この巻でシリーズのクライマックスを迎えるのではないだろうかという期待があった。物語の前半では、両替商今津屋吉右衛門とお佐紀の祝言が和やかな中にも厳かに描かれていた。
祝言を終え、お佐紀を迎えた今津屋で、それまで奥を一人で取り仕切っていたおこんは、気が抜けたのか、疲れが出たのか、一種の軽いうつ状態になった。おこんのことがいよいよ愛おしくなる磐音。(坂崎磐音、おこんの悩みはそなた自身の悩みじゃぞ。他人に任せるでない!)
時代小説で心の病が描かれることは少ない。若くて健康で才気煥発な女性が現在の仕事に徒が見出せなくなる。今でこそ、うつに関する理解が広がってきているが、江戸時代では偏見があってもおかしくないところ。愛するおこんのために、献身的な心遣い見せる磐音が感動的だ。
「おこんさん、それがしにはそなたしかおらぬ。掛け替えのないそなたに病などで倒れてほしくない」
(P.240)
そして、おこんと磐音の二人は、今津屋から休みをもらい、医師桂川甫周国瑞の強い勧めで、上野と越後の国境の三国峠下の法師の湯へ湯治に出かけることに……。
法師の湯というと、池波正太郎さんのエッセー集『食卓の情景』(理流はこの本で池波ファンになりました)や小説『闇の狩人』にも〔坊主の湯〕という名前で出てくる秘湯。今でも混浴なのかな。一度は行ってみたいなあ。『時代小説 読切御免第二巻』に収録されている、佐江衆一さんの短篇「峠の剣」の舞台も法師の湯だ。
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