夢枕獏さんの『陰陽師 太極ノ巻』を読み終えた。陰陽師の安倍晴明と親友の源博雅の二人が活躍する人気シリーズの第7作目。「二百六十二匹の黄金虫」「鬼小槌」「棗坊主」「東国より上る人、鬼にあうこと」「覚」「針魔童子」の6つの話を収録している。
このシリーズが楽しいのは、平安の都の怪事件をズバッと解決するという晴明の活躍ぶりが水際立っていることばかりでなく、晴明のパートナーとして事件現場に向かう博雅の存在、そして、二人の掛け合いにあるように思う。
「陰陽師」にはストーリー展開のゴールデンパターンがある。物語の発端で、晴明の屋敷で、二人が季節の趣きを肴に酒を酌み交わす。秋の陽光であったり、天から降りてくる雪であったり、闇の中で匂う桜であったり……。「まことに不思議なものだなあ、晴明よ」と博雅は心に浮かんだ思いを、溜め息のように言う。そのときの博雅は、詩人のようであり、哲学者のようであり、割り振られたワトソン役を逸脱した素敵な存在である。
晴明は「呪」という言葉で、博雅の問いかけに答える。やがて、どちらからか都で流行る怪事件が語られ、依頼を受けて事件現場や依頼者のもとへ行くことになる。
「では、ゆくか」
「う、うむ」
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
(「覚」p212)
「う、うむ」という生返事の博雅が、晴明に重ねて「ゆこう」と言われて「ゆこう」と答える。その間合いに博雅の性格が垣間見られて好きなシーンである。
さて、博雅以外にも、素敵な登場人物がいる。一人は晴明の好敵手であり仲間でもある市井の陰陽師で蘆屋道満。「鬼小槌」と「針魔童子」に出てきてバイプレーヤーぶりを発揮する。もう一人は、『陰陽師 龍笛ノ巻』に収録された「むしめづる姫」で二人に助けられた露子姫。「二百六十二匹の黄金虫」で女性昆虫学者ぶりを発揮してくれる。
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