牧南恭子さんの『女泣川花ごよみ』を読んでいる。深川を東西に流れる小名木川沿いに暮らす人々を描いた八編の短篇を収録した作品集である。初めて読む作家の方なので、どんな展開になるのか手探りで読み進めている。
「花筏(はないかだ)」
中川船番所の下役人・武七とその妻・加代は所帯を持って三十年の月日が流れた。かつては仲睦まじかった二人の間に今では会話はなく、家を出た子どもたちも寄り付かない。夫が冷淡になったのは、長男が小名木川で溺死してからだった……。
「十万坪」
日本橋の料亭で仲居をしているふじは、房吉と一緒になってから二十数年、いいことは何もなかった。仕事は長続きせず、大きな山を当てることばかり考え、そのくせ失敗ばかりしている房吉。小銭が入れば博打に費やし、小遣い銭がなくなれば、甘い言葉でふじから金を巻き上げる。そんな房吉が親探しをしている百万長者の話を持ってきた……。
「菜の花の舟」
十七歳の朝吉は両親を火事で亡くし、今は舟大工の祖父市兵衛と暮らし、仕事を手伝っていた。その日、大家の娘で幼なじみのおちかのことが好きで、一緒に洲崎の浜へ潮干狩りに行く約束をしていて、どうしても小遣い銭が必要だった……。
それぞれの作品を通して、川の関所の役割を果す中川船番所、広大な埋立地の十万坪、大工ばかりか船頭も多く住む海辺大工町、潮干狩りでにぎわう洲崎など、深川のいろいろな風景とそこで生活する人々の哀歓が切り取られている。新しい市井小説の作家の登場に期待したい。
深川の町は、時代小説家の山本一力さんも『あかね空』や『蒼龍』、『はぐれ牡丹』など、多くの作品で描いていて、もっとも市井小説の似合う町、時代小説のハートランドだ。
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