佐藤雅美さんの『疑惑 半次捕物控』を読了。またしてもやられたという感じで、作者のストーリーテリングの妙にはまった。今回も、岡っ引きの半次は事件ばかりでなく、周囲の人物にも翻弄される。金の匂いを嗅ぎつけて半次にまとわりつく浪人・蟋蟀小三郎。何かと事件の探索を持ち込む北町奉行所定廻り同心岡田伝兵衛。そして、女房の志摩。
今回は半次と志摩の夫婦関係にもスポットが当たる。シリーズ第2作の『揚羽の蝶』で、岡山藩に絡む事件で、備中宮内の親分の娘・志摩と一緒になる。面倒見がよくて行動的、思い込んだら一途なところがある志摩。その志摩が朝帰りを繰り返した末に、家を出る。小三郎との仲を疑いながらも、問い質せず悶々とする半次。
しかも、一緒になるときに、
「男は三行半を突きつければいつでも離縁できる。女はそうはいかない。鎌倉の東慶寺に駆け込むにしても、足掛け三年、二十四ヵ月もの間、東慶寺で過ごさなければならない。これはいかにも片手落ち。ですからわたしからいつでも離縁できるように、先に離縁状をください」
と言われて、半次は志摩に三行半を渡していた……。ピンチ!
同類として「がんばれ、半次」と思わず応援してしまう。捕物事件の結末とともに、夫婦の行く末が気になってしまう。
この物語から、三行半(みくだりはん)、つまり離縁状は、亭主の側から書くものであることがわかった。ともかく、次回作が楽しみな捕物シリーズである。
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表紙に描かれているのが蟋蟀小三郎と志摩
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コメント
「三行半」は、無筆ならば棒を三本半書くだけでもOKだったようですね。
証文のために(?)日付なしの三行半を書かせるという手はかなり一般的だったと聞いてます。私の知り合いも「奥さんに持たされて」、印鑑なしの離婚届を持ち歩いておりましたが・・・。かなり怖いはなしですよね。
そうですね。無筆の場合、ミミズのはったような線を書けばよいという話は何かの本で読んだ記憶があります。
「三行半」について、高岡法科大学の二羽和彦教授のページで実例を挙げて紹介していました。関心がある方はどうぞ。
http://www.takaoka.ac.jp/zatsugaku/014/niwa_5.htm