澤田ふじ子さんの『釈迦の女』を読み終えた。京の公事宿・鯉屋に居候する田村菊太郎を主人公とした人情捕物シリーズの第十弾である。江戸時代の京都を舞台にしているこのシリーズは、京の風物のほかに、文化と歴史を知ることができて興味深い。
本書で収録された「四股の軍配」の話では、江戸時代に江戸や大坂のほかに、京都でも相撲取りをまとめる頭取がいて勧進興行が行われていたことがわかる。相撲は日本の国技で、天皇が宮廷で観覧される「相撲節(すまいのせち)」として始まった。『日本書紀』に、野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹶速(たいまのけはや)が相撲で力を争った記事が見られるという。
江戸時代になると、相撲の元祖といわれる野見宿禰の正系菅原家の嫡流高辻家の分流である五条家が「相撲の御家」と定められた。五条家は横綱免許や相撲興行免許、江戸頭取や吉田行司家の証状も発給していた。天皇の存在と結びついた「相撲節」が起源というだけに、江戸時代、京都相撲は江戸や大坂よりも格が上だったという。なるほど。
そういえば、夢枕獏さんの『陰陽師 生成り姫』にも、平安時代の相撲節が描かれていたなあ。
「四股の軍配」は、宿屋の下働きとして働く素人相撲取りの鞍馬山米蔵が、苦界に身を沈めた妹を救うために、勧進相撲で優勝を目指す。田村菊太郎は、偶然知り合った米蔵に肩入れするが…。
京都相撲の意外な盛り上がりと、勝負に関わる人たちの運命の行方、人情が描かれていて面白い。本書には、知恩院の本堂回廊で毎日寝転がっている女を描く表題作のほか、「世間の鼓」「やはりの因果」「酷い桜」「伊勢屋の娘」を収録。京都が舞台でなければ、成立しないような話もあり、興趣つきない時代小説である。
- 作者: 澤田ふじ子
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