荒山徹さんの『十兵衛両断』は、とんでもなく面白い伝奇小説。しかも、伝奇ものには珍しい連作形式になってる。
第一話「十兵衛両断」で、われわれはいきなり二人の柳生十兵衛(うち一人は、韓人妖術師・柳三厳(ユサムオム)だが)に出会う。柳生十兵衛が、ノッカラノウムという仮面を使った秘術で朝鮮に拉致されてしまう……。
若き日の失踪、生涯子をなさなかった理由、晩年の遁世生活と死、柳生十兵衛の謎に対して、荒山さんは恐るべき答えを用意していた。
第二話「柳生外道剣」では、柳生新陰流の祖、石舟斎が剣を学んだ神泉伊勢守と疋田豊五郎景兼(ひきたぶんごろうかげとも)が登場する。疋田景兼は、『魔風海峡』にも、朝鮮の王子・臨海君に剣を教えた人物として登場していて、荒山作品ではおなじみの剣豪である。
第三話は、柳生宗矩と柳生一族の出身で陰陽頭の柳生友景が、韓人陰陽師と対決する「陰陽師・坂崎出羽守」。柳生家の家紋として知られる二蓋笠の由来が明らかになる。
第四話「太閤呪殺陣」は、秀吉の朝鮮出兵に苦しめられた朝鮮王は、秀吉暗殺を決意し、枢星卿(妖術師)と二人の降倭を日本に送る…。
そして第五話は、「十兵衛両断」の後日談。最終話にふさわしく、作者は壮絶な結末を用意していた。一族の面々が個性的であり、権力の中枢近くにいるということもあり、柳生ものはやっぱり面白いと思った。
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