陰陽師というと、安倍晴明を家祖とする土御門家が有名だが、澤田ふじ子さんの『鴉婆 土御門家・陰陽事件簿』を読むと、大黒党(だいこくとう)と幸徳井(こうとくい)系の陰陽師たちもいたことがわかる。
大黒党は、室町時代中期、相国寺北畠散所に集住していた大黒党声聞師(唱門師)の末流で、土御門家の支配を受ける下級陰陽師であり、院御所に参仕して左義長役(さぎちょうやく)を務めていた。左義長とは、正月十五日に行われる悪鬼払いの行事。庭に青竹を束ねて立てて、それに扇子や短冊などを結びつけ、陰陽師が歌い唱して焼くもの。
一方の幸徳井家は暦道をつかさどっていた賀茂氏の後胤で土御門家とともに宮中陰陽頭の職についていた。縁が深かった奈良の声聞師たちを土御門家が配下に置いたことに、起こり争いが起こった。
『鴉婆 土御門家・陰陽事件簿』は、大黒党の「野疾(のばしり)」と呼ばれる陰陽師が、陰陽頭・土御門泰栄の駕籠を襲い、逆に泰栄に仕える譜代陰陽師の笠松平九郎に殺されるところから物語は始まる。主人公の平九郎の前に立ちはだかる大黒党の野疾たちとの抗争、そして、人の心に潜む魔物を退治し、物欲、金銭欲、権力欲、色欲から引き起こされる事件を解決する平九郎ら陰陽師たちの活躍ぶりなど、興趣つきない連作形式の時代小説。
『大盗の夜』に続く、「土御門家・陰陽事件簿」シリーズの第二弾だが、今回より大黒党の面々を登場させたことで、作品の面白さが倍加したように思われる。
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