山本一力さんの『深川黄表紙掛取り帖』を読み始める。金に絡んだ江戸の厄介ごとを、知恵で解決する裏稼業に励む四人の若者の活躍を描く連作形式の時代小説。タイトルに「深川」の文字が入っているように、元禄期の江戸・深川が舞台になっている。
深川といえば、山本周五郎さん、藤沢周平さん、池波正太郎さん、北原亞以子さんら多くの作家が作品の舞台として選んだ場所で、いわば、時代小説のハートランドである。今、もっとも深川に縁の深い作家といえば、やはり山本一力さんであろう。
作者の山本さんは深川にお住まいで、『損料屋喜八郎始末控え』や『あかね空』『大川わたり』『はぐれ牡丹』など、深川に住む主人公が活躍する作品が多い。物語の中で、登場人物たちが、出勤の途中などに、ごく自然に富岡八幡宮をお参りするシーンがよく出てくる。
江戸のころ、「ひとは陸を、ものは水を」という公儀の目指す施策があったそうだ。大八車より舟が多くの荷物を運べるので、そのため、江戸の町の東側には堀(運河)が随所に掘られ、天然や人工の河川と組み合わせて、水上の輸送ルートが作られていた。とくに、水路が縦横に張り巡らされ、廻船や倉庫業が発達したのが深川の佐賀町である。
『深川黄表紙掛取り帖』の「水晴れの渡し」という話には、深川の堀を我が物にしたいという田舎の成り金の息子が登場する。深川を愛し、そこに暮らす人たちを救おうとする、蔵秀、雅乃、辰次郎、宗佑の四人組の、大掛かりなアイディアと行動に、スカッとする。なお、「水晴れ(すいばれ)」とは、雨が来ることの意味で使われている。雨を嫌う屋台稼業で、雨を忌み言葉としていた。
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