『いっぽん桜』に収録された「そこに、すいかずら」は、江戸の美しさが味わえる短篇。すいかずらは、漢字では、「忍冬」と書くそうだ。真冬の雪に遭っても葉をしぼませないことから名づけられたという。5月から6月に花が咲き、すいかずらは「吸葛」とも書き、解熱・解毒に効果がある。
主人公の秋菜は、日本橋音羽町の名門料亭の娘。両親に愛情たっぷりに育てられ、三千両のひな飾りを贈られる……。
絢爛たる元禄文化を背景とした、スケール感も大きな物語である。豪商紀伊国屋文左衛門も重要な役回りで登場する。元禄時代がバブル期と呼ばれるに至った原因が、貨幣改鋳の影響にあったことも実感できた。
紀伊国屋文左衛門が登場する時代小説では、上田秀人さんの『破斬―勘定吟味役異聞』が面白い。
一方、「芒種のあさがお」は短篇ながら、芝田町の酒屋の娘おなつの成長を通して、江戸の商家と職人の家の人情の対比を描く、味わいある作品。作者の山本一力さんの愛する深川の風景や、富岡八幡宮のお祭りが美しく綴られている。文化四年の永代橋崩落についても、触れられていて興味深い。
解説の川村湊さんが、「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」という唐の劉廷芝の詩の一節を引用しつつ、花をテーマにした人の心を描いた4つの物語を収めた、この本に素敵な解説をつけておられた。
- 作者: 山本一力
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- 作者: 上田秀人
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