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会津人の誇りと戊辰戦争

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戊辰戦争を描いた時代小説は白虎隊の話など、悲惨そうで食わず嫌いのところがあった。そんな苦手意識を変えてくれたのが、中村彰彦さんの時代小説。会津藩士たちの生き様の過酷さを感情的に描くのではなく、史料を丹念に掘り起こして美しい小説に紡ぎ出している。

『修理さま 雪は』は、戊辰戦争時の会津藩士とその家族を描いた7編を収録した短篇集。収録された作品について雑感を記す。

「修理さま 雪は」家老の嫡男で藩の将来を担う逸材と期待されていた、軍事奉行添役の神保修理は徳川慶喜の大坂逃亡の責めを負って自刃した。残された妻の雪(雪子)は、神保家の嫁として新政府軍の若松城下への突入を機に自決を決意するが…。戦争のもたらした異常心理と誇り高き会津人の生き方を垣間見ることができ、胸が締めつけられる。

「涙橋まで」会津娘子隊を率いた中野竹子の最期を描く短篇。竹子の聡明さ、清冽さ、凛々しさがなんとも美しい。

「雁の行方」会津藩家老西郷頼母は、自らの信念に基づき、藩主松平容保に諫言したり、同僚を容赦なく責たりする、剛腹さと矯激さをもっていた。異端の会津家老の数奇な生き様が興味深い。

「残す月影」女ながらに鉄砲を扱う会津藩砲術師範の娘・八重の戊辰戦争で出色の活躍ぶりに目をみはった。しかも、後年同志社を創設した新島襄と結婚したというエピソードを読み、びっくり。

「飯盛山の盗賊」白虎隊の悲劇を利用しようとした人の醜さが際立つ一篇。

「開城の使者」鶴ヶ城開城の秘話をスリリングに描く。

「第二の白虎隊」明治三年に、会津から遠く離れた豊津藩小笠原家の藩校に留学した7人の元会津藩士の子弟。その中には会津藩家老で、戊辰戦争の首謀者としてただ一人斬に処された萱野権兵衛の子息・郡長正もいた…。史実をもとにしながらも、知られざるエピソードで興味深い。敗者の歴史がいかに伝えられにくいことか。

戊辰戦争と名づけられた内戦で、奥羽越列藩同盟側戦死者総数は4650数名だったという。その内訳は徳川家臣1505人、仙台藩1000余人、二本松藩336人、庄内藩322人、長岡藩310人…。会津藩の総戦死者数は3014人だという。いかに多くの会津藩の血が流されたことか。ある意味では異常ともいえる会津人の藩への思い、死生観、心理が作品を通じて浮き彫りになっていく。

作中で老人が銀煙管を吹かしていた若者を叱りつけるシーンが印象的。「負けた傷ましさをなぜ考えぬ。亡国の憤りを感じぬ輩ばかりだからこそ、金もないのに銀煙管をもてあそんだり、御変動などということばで事をごまかそうとしたりするのじゃ」。歴史を知らない、生きる意味がわからなくなっている若者に読んでもらいたい作品集である。

修理さま 雪は (中公文庫)

修理さま 雪は (中公文庫)