『狐釣り』を読了。『おすず』『水雷屯(すいらいちゅう)』に続く杉本章子さんの「信太郎人情始末帖」の第三弾で、人情話と捕物帳の二つの要素が堪能でき、お気に入りのシリーズの一つだ。連作形式で、一話一話がオリジナリティがあってワクワクしながら読み進めた。
今回の巻では、歌舞伎の河原崎座で大札(勘定方)の下働きをする主人公・信太郎と恋仲のおぬいに子どもが生まれるところが人情物語でのヤマ場。お産前後の信太郎の心情や子どもが誕生したことで変わる信太郎の周囲の対応ぶりが見もの。信太郎とおぬいの恋とは別に、信太郎の幼なじみで岡っ引の手下を務める元吉と医師の後家・お袖の恋も描かれている。
一方、捕物帳の要素の部分では、信太郎と因縁浅からぬ事件で捕らわれた賊が脱獄したことから物語が始まり、賊は復讐を企て信太郎の身に危険が訪れる…。
信太郎は許婚を捨てて、おぬいとの恋におぼれたことで勘当されたが、表題になった「狐釣り」の話では、勘当寸前の放蕩息子が「死一倍(しにいちばい)」という高利の金を借りる話が出てくる。死一倍とは、高利貸しのもとに、親が死んで跡式を継いだら、借り金の倍を返すという一札入れて、火急の金を借りることをいう。そういう手合いは、おおかた金持ちの息子で、人間が甘くできていて、ほとんどが親の死ぬ前に勘当されたりする危険性もあるために、高利になっている。
著者の杉本さんは九州福岡生まれで現在も福岡在住で著作活動をされているが、江戸の町を見事に描ききっている。こんなことが可能なのも、大学時代から江戸文学を研究され、歌舞伎にも精通されていることで、江戸のことばや風物を自分のものにされているからだろう。
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コメント
「狐釣り」・・・なぜか狐は釣るものですね?狂言でも「釣狐」という演目があるし。
古典芸能にも造詣が深い作者なので、「釣狐」を意識してタイトル付けかもしれないですね。どんな狐が釣られるかは読んでのお楽しみ。釣りといえば英語でFishingですが、「フィッシング詐欺」をずっと「釣り」のフィッシングだと思っていました。本当はPhishingだったんですね。狸なら燻し出すといったところでしょうか。「隠狸」という狂言もあるそう。