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切絵図から江戸が見えるか

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『江戸切絵図散歩』を読み終えた。関東大震災や東京大空襲による破壊と、東京オリンピックや高度経済成長、地上げとバブル経済などによる開発、再開発という美名のもとでの都市の変貌。池波正太郎さんが愛された江戸・東京は、田畑や雑木林は宅地に変わり、堀は埋められ、古い建物は取り壊されていく。いにしえからの景観が損なわれ、風情や人情が様変わりしてしまうことへの作者の嘆きと愛惜の情が行間から伝わってくる。

池波さんの小説を読んでいて快いのは、自然に江戸の町にわれわれ読者を誘ってくれることだ。切絵図と首っ引きで江戸の町を書き起こすという感じはなく、行き慣れた場所に江戸を透視して、そこに暮らす人々のたたずまいや息遣いまで再現しているように思われる。それというのも、池波さんが浅草育ちで、少年の頃から町歩きをして、古き江戸や明治の情緒を体に吸収してきたからだろう。

巻末にあった「池波正太郎作品地図」を眺めていたら、三大作品にゆかりの場所が御城(江戸城)を囲む形で、バランスよく配置されていることに気づいた。「鬼平犯科帳」は清水御門外、目白台、本所など、「剣客商売」は鐘ヶ淵、四谷伝馬町、橋場、浜町など、「藤枝梅安」は品川台町、浅草、橋場、音羽など、といった具合だ。

やはり、切絵図を眺めているだけでは、江戸の町を思い描くことは難しい。面白い時代小説に出合い、自然に江戸の空気を楽しみ、その余韻が冷めないうちに切絵図でなぞる。時間と地理的に許されれば、実際に物語の舞台となった東京の街を歩いて追体験してみるのがいいだろう。

江戸切絵図散歩 (新潮文庫)

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