最近、江戸切絵図を見る機会が多く、ふと気になって、十数年ぶりに池波正太郎さんの『江戸切絵図散歩』を読み返してみた。時代小説にはまり、「江戸切絵図」なるものの存在を知ったのは、池波さんのエッセーか何かだったように記憶している。
当時は、切絵図を古文書の一種のように考えていて、高価で手に入れにくいものと考えていた。そのため、A5変型サイズの薄手の書籍で江戸切絵図が多数収録され、池波さんのエッセーが付いた本書は宝物のように貴重だった。
読み返してみると、池波さんの語り口は親しみやすくて郷愁を感じる。浅草で生まれ東京の変遷を長年見てきた著者ならではの町の描写が随所にあり、江戸切絵図と現在の東京の橋渡しをしてくれている。池波さん自身も、大枚をはたいて「近吾堂版江戸切絵図」を入手し、散歩の際は携行したという。もっとも文庫版は、エッセーを読み、絵や写真を見たりする分には申し分ないが、肝心の切絵図は縮小されすぎていて、ルーペでもないと地名を読み取りづらい。
近吾堂は麹町十丁目にあった近江屋吾平板のことで、江戸切絵図を始めた版元。『江戸切絵図散歩』には、彩色が鮮やかな尾張屋板の切絵図や須原屋版大絵図も収録しているが、池波さんがエッセイで言及しているのは近吾堂をもとにしているようだ。
今は、人文社から出された『嘉永・慶応 江戸切絵図』(尾張屋板)を、時代小説を読む際にかたわらに置いている。現在と町名が変わったり、橋や堀がなくなっていたりするので、切絵図で確認すると、物語がより楽しめるのだ。久しぶりに池波さんの時代小説を読み返してみようかな。
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