宮本昌孝さんの『夏雲あがれ』上下巻を読了する。読書中はハラハラわくわくで、読後の清爽感がバツグン。青春時代小説の醍醐味が満喫できる作品。
江戸時代後期、東海地方のとある小藩で、今まさに別れをつげようとする仲良し三人組。馬廻組百二十石の曽根仙之助は、藩主河内守吉長の江戸参勤の御供衆に初めて選ばれた。直心影流の印可を得た花山太郎左衛門は、藩の代表として将軍家台覧による武術大会に出場することが決まった。江戸行きが決まった二人に対して、徒組三十石の三男坊の筧新吾は、江戸出府はおろか、部屋住みとして養子になるほかは身を立てる術がなかった……。
親友たちと離ればなれになる喪失感、二人が大人になってゆくことへのどこか割り切れない思い、自分だけが取り残されるという焦燥感と寂寥感、新吾の抱える青春の悩みがよく伝わってくる。「ビルドゥングスロマン(教養小説)」といわれる、主人公がさまざまな障害や苦難を乗り越えて成長していく姿を描く小説の形をとっている。読み進めるうちに主人公への共感が強まり、読後に大きな感動が広がっていく。
藩主吉長の傅役を勤めて隠居した名物老人・鉢谷十太夫が牢人態の武士二人に襲われるという事件が起こった。悶々とした思いを抱えた新吾は、国家老石原栄之進と事件の真相を追及することに……。
主人公新吾の思いを描くばかりでなく、その成長のための試練として、藩主の世継ぎをめぐる抗争、藩内にはびこる巨悪の影、謎の隠密組織「白十組」の動き、藩の存亡を賭けた争い、友人たちの窮地、幼なじみの志保への思いなどが、ストーリーに盛り込まれて、ハラハラドキドキしながら、読み進められる。
宮本さんの代表作といえば『剣豪将軍義輝』があげられるように、チャンバラシーンの迫力や映像的な見事さは定評あるところ。この作品でも、随所に剣戟場面が描かれていて、ファンにはうれしいところ。
- 作者: 宮本昌孝
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