『君を乗せる舟―髪結い伊三次捕物余話』を読んでいたら、髪結いの伊三次が奈良茶飯を食べるシーンが出てきた。
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吾妻橋を渡った辺りから糠のような細かい霧雨が降ってきた。傘を差すほどではないが黙っていると顔が濡れる。伊三次は台箱を持ち換えて、顔の水気を拭った。
目指す寮は源兵衛堀に架かる業平橋のすぐ近くの中ノ郷村にある。ちょうど、寮の前に奈良茶飯を喰わせる茶店があると番頭は教えてくれた。
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奈良茶飯は奈良の東大寺や興福寺の僧侶たちの精進料理で、当初は茶を淡く煎じたものに塩を加えて炊き上げた飯だった。庶民に広がるにつれ、そこへ炒り大豆、炒り小豆、焼き栗が入るようになり、とりわけ女性に人気だったようだ。東海道・川崎宿の名物でもあり、万年屋の奈良茶飯として、『欠落ち―公事師政吉御用控 (小学館文庫)』(P.103)に登場している。
向島で、奈良茶飯に精進料理の膳で、春の少し遅いお昼が食べられたら、江戸情緒を感じられるかも。江戸の四季を描いた作品では、『御宿かわせみ』がまず思い浮かぶが、この『髪結い伊三次捕物余話』シリーズもなかなか雰囲気がいい。
- 作者: 平岩弓枝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/03/12
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