土曜の夜、時間がまとまって取れたことと、読み味がよかったことから、『黒く塗れ―髪結い伊三次捕物余話』を一気に読了した。伊三次の女房、お文が妊娠中ということもあり、作中で江戸の出産について触れられている箇所があり、興味深かった。
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「困りましたねえ。そういうことなら産婆さんではなく、産科のお医者さんに頼まなくては」
「でも、わっちは、そんな医者に心当たりはないです」
「緑川の旦那は確か、蛭田流のお医者様をご存じですよ。奥様もそのお医者様のお世話になったそうですから。一番上の坊ちゃんがやはり逆子だったんですよ」
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(P.172)
文が先輩の芸者の喜久壽に、お腹の子どもが逆子らしいと心配を打ち明けるシーンで、蛭田流産科という言葉が登場する。江戸の産科というと、はさみのような道具を使って赤ん坊を引き出す賀川流の方が有名らしい。
作中では、蛭田流産科は、陸奥国白河郡渡瀬の農家出身の蛭田玄仙によって打ち立てられたという。赤ん坊を傷つける恐れのある、賀川流産科に反発して自ら産科の研究をして、道具を使わずに手指だけでうまく引き出すそうだ。
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