この夏の終わりに、信州上田と松代(まつしろ)を訪ねた。いずれも真田家ゆかりの場所である。旅のきっかけは、5月に観た「池波正太郎の世界展」(世田谷文学館、2004年4月24日~6月13日開催)だ。久々に池波ワールドを満喫した後、ここはやはり池波正太郎真田太平記館(長野県上田市)も行かねばと思っていたところ、松代(長野市)で「エコール・ド・まつしろ」という観光客向けのイベントが行われることを知り、これはチャンスと8月の終わりに1泊2日で旅に出た。
上田は、真田昌幸が上田城を築城した場所で、上州の沼田と並んで、戦国時代の真田家の領地である。江戸時代になると真田信之が松代に転封され、仙石氏続いて松平氏の領地となっている。とはいえ、上田は池波さんの大長編『真田太平記』の主舞台である。北国街道沿いの柳町のあたりは、城下町のたたずまいを色濃く残していて、なかなか風情があった。上田藩主屋形跡は上田高校の一部として使われていて、こんなところへ通える高校生が少しうらやましくなった。また、上田城は、3つの櫓を遺して公園となっていて、市立博物館も充実し、江戸時代の空気を感じることができた。メインの池波正太郎真田太平記館へは、上田駅から徒歩10分だが、上田藩主屋形跡→上田城→柳町の順で巡ってきた。建物は2階建てで、1階は喫茶とグッズや書籍の販売コーナー、『真田太平記』に登場する「草の者」の世界が映像でわかる忍忍洞などで、2階が真田太平記コーナーと池波正太郎コーナーに分かれて展示されていた。蔵を利用したギャラリーとシアターもあり、ファンはたっぷり楽しめる。実は『真田太平記』は十年ほど前に、一度読んだきりなので、ストーリーを結構忘れていたので、この展示を観ていろいろと思い出し、夢中で読んだころのことが少しよみがえってきた。真田幸村、信之、お江、佐助…、物語の主人公が頭の中で縦横無尽に活躍をし始めた。NHKでもかつて1年間にわたってドラマが放映されたが、ぜひ、再放送してもらいたいな。池波さんには『真田太平記』以外にも、初の長編時代小説の『真田騒動』や直木賞を受賞した『錯乱』など、真田家関連の作品が実に多いことを展示を観てあらためて思った。そして、その多くをまだ読んでいないことにも。この秋は、池波さんの真田家関連本を読んでみよう。池波正太郎真田太平記館の後、池波さんも食べたといわれる上田のそば屋「刀屋」で、名物の真田そばを食す。みそになめこ・削り節が入ったものをだし汁とつゆで溶いてつくるつけだれに太目の麺をつけて食べるものだ。もり加減が大・普通・中・小に分かれていて、中でもほかの店の大もりにあたるボリューム。お腹を満腹にさて、『真田太平記』の信之のように、上田に別れをつげて、松代に向かった…。
(2004.8.27・理流)
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