遅れ馳せながら、世田谷文学館の「池波正太郎の世界展」を見てきた。池波正太郎さんは、わたしを時代小説の虜にした恩人の一人である。実を言うと、最初の池波さんの本との出合いは、三大シリーズ(『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』)ではなく、『食卓の情景』などの食や作法に関するエッセイからだった。池波作品で解説を担当されていた佐藤隆介さんとお会いする機会があり、池波さんのダンディズムを勉強したくて読み始めたように記憶している。その当時は時代小説を読んだことがなく、どこが面白いのかもわからずいた頃である。
その後2年ばかり、池波ワールドに惹かれて。エッセイばかりでなく、三大シリーズをはじめ、主だった作品を読了。『鬼平犯科帳』では、各話に出てくる盗賊たちをメモって盗賊ミニ事典のようなものを作り、一人悦にいっていた。1990年5月、池波さんが亡くなられたとき、表現しようのない喪失感を持った。
とはいえ、1996年5月の「時代小説SHOW」のサイト・オープン以来、池波作品を取り上げる機会が少なく、熱心な読者とはとてもいえない、心苦しい日々を送っている。「池波正太郎の世界展」は、池波さんの作品の世界と、江戸っ子の粋を堪能できる必見のイベントだ。「やっぱり、かっこいいな」、昔、こういう大人になりたかった理想のダンディズムがそこにあった。
展示は、「戯曲から小説へ」「鬼平誕生」「戦国と幕末」「絵筆の楽しみ」というように、作品に沿って構成されていた。鶴松房治さんと縄田一男さんが監修をされていて、筋の通ったわかりやすいものになっている。人気の三大シリーズのところは、TV放映されたビデオ上映したりして、多くの入場者の目を集めていた。『真田太平記』や直木賞受賞作品の『錯乱』など、戦国時代から江戸初期にかけての真田家の歴史に題材をとった物語が、何とも懐かしく、久々に読み返してみたくなった。西浅草の池波正太郎記念文庫(台東区立中央図書館内)や池波正太郎真田太平記館(長野県上田市)の協力も得て、ファンには涙モノの貴重な品が多数展示されている。
この夏、真田家の領地だった信州松代と池波正太郎真田太平記館を訪れてみたいと思いながら、世田谷文学館を出た。
池波正太郎の世界展
図録には展示資料の図版が多数収録されています
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