「月形龍之介HP」(注:その後、「BIKENSHI」に移転)でおなじみのマンガ家・中田雅喜さんが編集された『月形龍之介』(月形哲之介監修・ワイズ出版・3,800円+税)が遂に刊行された。HPの制作日記などでその奮闘ぶりはきいていたが、実際の本を手に取ると、その中身の濃さはちょっと感動もの。
長男でかつて俳優としても活躍されていた哲之介さんの監修により、ファミリー総出演による日本映画黄金期の名優・月形龍之介の集大成本。内容は、自伝やエッセイ、インタビュー、日記、対談、句集、出演作品リストなどで構成され、400ページ以上にもわたる貴重で濃い内容のものだ。
とくに60ページに及ぶスチール写真で構成された「月形龍之介劇場」が圧巻。『姿三四郎』、『無法松の一生』、『水戸黄門漫遊記』など、タイトルだけは知っていた作品から、初めて見る作品まで、予告編を観ているような楽しさがあった。実は、このページで月形さんのお顔をじっくりと拝するまで、龍之介さんの顔を思い浮かべることができなかったのだ。
切れ長の目で端正なマスク、背筋をピンと張り、凛とした感じが何ともかっこいい。スチール写真はそれぞれポーズが決まっていて構図の勉強にもなる。ど派手な恰好や白塗りをしていないのも親しみやすく、今見ても新鮮。女優との絡みが少ないのがちょっと残念。『敵討破れ傘』、『海賊船』、『殺陣師段平』など、ぜひ、今度は動いている月形さんを観たいものだ。
『月形龍之介』 月形哲之介監修 円尾敏郎・高橋かおる・中田雅喜編集 ワイズ出版刊 amazonで見る CONTENTS 第一章 月形龍之介劇場 |
自伝の「第二章 俳優への道」と夫人の想い出が綴られている第三章で、月形龍之介さんの半生がわかる構成になっている。 さまざまな仕事についた独立心旺盛な少年時代、その後夫人となるサトさんとの駈け落ち、京都での役者修行と下積み時代の苦労、独立プロダクション設立など、時代劇スターとして確固たる地位を築いた全盛期…。ドラマを地でいくような波瀾万丈の生涯を送られていて、どの部分を切り取っても面白い物語が作れそうだ。マンガ家の中田さんが、若き日の月形をぜひ描きたいと、イレ込まれている理由がよくわかった。
バンツマ(阪東妻三郎)さんや作家直木三十五さんのこと、映画作りに取り組む姿勢、私生活など、興味深い話が綴られている。長男の月形哲之介さんの話も龍之介さんの温かさと大物ぶりを伝えてくれて面白かった。同じ扮装をしていることもあるが、『それからの武蔵』の二人はそっくり。現場で間違えられたりしなかったのだろうか?
3,800円というと2枚組のCDぐらいの値段で本としては高いが、グラビアページが60ページもあり、400ページを超えるボリュームに、貴重な写真や話が満載なので納得。月形龍之介の今世紀最初で最後の集大成本で、中田さんによると、編集者やインタビューに協力された方々も、全員持ち出しの大赤字覚悟で作った本ということ。月形さんの映画を観たこともなければ、それほど熱心な時代劇ファンでもないボクでさえ、大満足の一冊。リアルタイムに映画を観てきた人には涙モノかも。
(2000.1.25・理流)
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