後期から晩年にかけての文化人としての活躍ぶりから、どうも司馬遼太郎さんには近寄りがたさを感じていた。そして、司馬さんが伝奇的でエンターテインメント性の強い時代小説から、ビジネスマンの必読の書のような歴史小説へ、著作物を変えていったことで、時代小説が歴史小説よりも低いものというような見方をマスコミや一般の人々に与えた功罪も大きいように思っていた。
ホームページ開設当時(1996年5月)は、こんな思いで、時代小説と歴史小説を分けて考え、時代小説の振興を願っていた。最近では、ページを訪れる多くの時代小説サポーターの声を聞き、大きな勇気をいただき、もう、時代小説や歴史小説という言葉にこだわらなくてもいいのかなと思うようになっている。
実は、初めて読んだ歴史小説は、司馬遼太郎さんの『国盗り物語』だった。小学校高学年ぐらいだったと思う。田舎に住んでいたので、母に連れられて町の本屋さんに買いに行ったのを覚えている。NHKの大河ドラマ「国盗り物語」の影響で読みたいと思ったわけだ。小学生のうちから司馬さんを読んでいたというのが、その後のちょっとして自慢だった。
その後に、司馬作品を読みなおしたのは、隆慶一郎さんの『吉原御免状』を読んだとき、解説に隆さんが映画「梟の城」の脚本を書かれていたことや、初期の作品には伝奇色の強い作品があったということを知ってからだった。
日本橋・高島屋で開催された司馬遼太郎展に行ってきた。午前中の早目の時間にもかかわらず盛況で、改めて司馬さんの人気の高さを感じる。『竜馬がゆく』『菜の花の沖』『坂の上の雲』の三作品を中心に企画が構成されていた。ただ、司馬さんの熱心ではない読者で、『竜馬がゆく』ぐらいしか読んでいない者としては、いささか肩身の狭い場でもあった。
展示品の中で、『菜の花の沖』の主人公・高田屋嘉兵衛関係の史料に興味深いものが多くてうれしくなった。北前船の模型や船箪笥,矢立など、今後、この小説を読むとき細部まで頭に思い浮かべることができそう。
産経新聞の記者時代にスクープした、金閣寺放火事件の記事は、司馬さんの若い頃の別の面が垣間見ることができて得した感じがした。ともかく、司馬ぎらいが払拭できたのは大きな収穫。
司馬遼太郎展
十九世紀の青春群像
1998年10月29日(木)~11月10日(火)
日本橋高島屋8階ホール
主催:産経新聞社/NHKサービスセンター
後援:NHK/サンケイスポーツ/夕刊フジ/サンケイリビング新聞社
特別協力:(財)司馬遼太郎記念財団
協力:文藝春秋
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