双頭の鷲 上・下
(そうとうのわし)
佐藤賢一
(さとうけんいち)
[西洋]
★★★★☆☆
♪佐藤さんの名作が文庫化。『傭兵ピエール』の姉妹編的な作品。圧倒的なスケールで描かれる西洋時代小説の傑作。全く歴史観がない、中世フランスの百年戦争の頃を舞台にしていながら、門外漢の読者を惹きつけ虜にする、佐藤さんの筆致とストーリーテリングに脱帽。
野蛮で、礼儀知らずで無教養、四十歳過ぎまで女性に縁がない、見てくれも奇妙な男、ベルトラン・デュ・ゲクランがこの上ない、ヒーローに思え、親近感が湧いてくるから不思議だ。その容貌も「浅黒く焼けた顔は丸く、飛び出した目玉も丸く、どっしりしとした鼻までが丸く胡座をかいている。白々と頭皮を露にしながら、髪も綺麗に丸刈にして、いやが上にも目立った耳は、これまた休憩する揚羽蝶のようだった」と描写され、腕はだらりと下げれば膝まで届くといった異形ぶりだ。
ベルトラン・デュ・ゲクランの魅力を語るのに、筆者は多士済々の人物を配した。従兄弟で托鉢修道士エマヌエルは、その相談役。幼なじみで占い師のティファーヌは、ベルトランの初恋の人。ひ弱な王太子でのちにフランスを統一するシャルル五世。イングランド軍の戦争の天才、グライ―。
友情あり、恋あり、戦争ありで、面白いこと100%保証付きだ。
物語●イングランドとの百年戦争で劣勢に陥るフランスに登場したベルトラン・デュ・ゲクラン。ブルターニュ産の貧乏貴族、文盲で口を開けば乱暴で粗野なことばかり。だが、幼き日より、喧嘩が滅法強くて、見事な用兵で敵を撃破 する、軍事の天才だった。
ベルトランは、捕虜となった実弟のオリヴィエを救うため、イングランド軍の騎士トマス・オブ・カンタベリと決闘することになった…。(下巻)
ベルトランは、子どもの頃、占いの評判の高い修道女に占ってもらった。「この男子、人知の及ばぬ栄光の定めを授かりて、系譜に未踏の輝きを得ん。天下に無二の人となり、百合の花に飾られたる、未曾有の名誉を楽しまん。遠くエルサレムの果てにさえ、名を轟かせるに至るなり」。
ベルトランは、百合の花に象徴される王太子シャルル(後のシャルル五世)と出会い、奇蹟のデュオは、民衆に希望をもたらしていった…。(下巻)
目次■プロローグ ポワティエ(一、戦場/二、敗者)|第一章 ブルターニュ(一、悪童/二、ドールフィン館/三、猛獣遣い/四、占い/五、闘技場/六、決闘/七、美の厭うところ/八、弟たち/九、疑念/十、突破/十一、チャンドスの目/十二、主君)|第二章 パリ(一、ポントルソン/二、結論/三、図書館/四、決別/五、赤青帽/六、パリは燃える/七、預言の人/八、脱出/九、プロヴァン/十、地図/十一、遊戯/十二、モー/十三、パリ包囲/十四、目算)|第三章 ノルマンディ(一、旧主/二、見合い話/三、日課/四、石の質感/五、カレー/六、騎士は踊る/七、前日/八、ホロスコープ/九、過去/十、グーレー城/十一、コシュレル/十二、敵将/十三、動揺/十四、幕開け)(以上上巻)|第四章 スペイン(一、オーレ/二、展開/三、アヴィニョン/四、ピレネ越え/五、ナヘラ/六、サン・ポル館/七、彷徨/八、悪夢/九、対面/十、ガスコーニュ人)|第五章 フランス(一、プロヴァンスからの手紙/二、モンティエル/三、祝宴/四、表裏/五、モン・サン・ミシェル/六、最後の目/七、不純/八、フォワ伯の依頼/九、鋳型/十、鷲の帰還/十一、虐殺/十二、百合の花に飾られたる/十三、ポンヴァヤン/十四、死相)|第六章 ブルターニュ(一、軍神/二、愛しすぎて/三、遺言/四、生還/五、牢/六、初恋/七、難局/八、迷い/九、エキュ・ドゥ・フランス館/十、僧院/十一、シテ島/十二、両替屋橋/十三、ひとまち顔/十四、ボテ城)|エピローグ エルサレム(一、戦場/二、聖地)|主要参考文献/文庫版あとがき/解説 北上次郎(以上下巻)